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トップページ > 日本お米紀行 > ~最新品種誕生ものがたり~熊本県/くまさんの輝き 極良食味米として知られる熊本県の主力品種ヒノヒカリの座も脅かす 県のフラッグシップ米として期待が寄せられる「くまさんの輝き」の実力とは?

平坦地域にも極良食味米をという要望に応えた森のくまさん

 そして、高冷地域のコシヒカリ、山麓準平坦地のヒノヒカリという極良食味米の適地適作が進む中、平坦地域ではニシホマレやユメヒカリを中心に、ヒノヒカリなども作付けされていたが、核となる極良食味品種がなかった。そういう状況で、平坦地域にも「適地適作の極良食味米を!」という声が生産者から上がったのは、当然の成り行きである。

  「森のくまさん」の統一米袋


 そこで1997年(平成9)に奨励品種として採用したのが、熊本県のオリジナル品種である森のくまさん(品種登録は2000年)だ。実は熊本県が県の事業として、米の品種育成に着手したのは1989年(平成元)からと、他県に比べれば大分遅い。
「"県で育成したものを、独自ブランドで展開したい〟という機運が高まったことで、米の品種育成がスタートしました」と、熊本県農業研究センター/作物研究室の木下直美研究参事は語っている。育種事業のスタートとともに、交配が行なわれたものの一つに、森のくまさんがあったのである。
 森のくまさんは、両親がヒノヒカリとコシヒカリという交配で、極良食味米になることは最初から約束されていた品種といっても過言ではない。
「森のくまさんの系統番号は熊本2号、併せて熊本3号も同時期に品種登録出願をしていますので、県で育成された最初の品種の一つといってもいいですね。予定通り、ヒノヒカリと差がない極良食味品種になりました。ヒノヒカリの熊本県版ともいえる品種です」(木下研究参事)

県農業研究センターでの交配作業


 一見、ユニークな名前のようにも感じるが、夏目漱石が熊本県を「森の都」と呼び、熊本産のオリジナル品種だから「森のくまさん」にしたという、いたって単純明快なネーミングなのだ。
 そして「熊本の最初のオリジナル品種としてヒノヒカリを超えて、人々に愛される品種になってほしいと感じていた」と木下研究参事が語っているが、渡邊班長は冷静に次のように述べている。
「確かに森のくまさんが出ることで、適地適作の地域分けが進みました。実際には山麓準平坦地でも栽培できる品種でしたが、すでにヒノヒカリが根付いており、人気もあったので、生産者が森のくまさんへ転換するまでには至りませんでした。また熊本県としても、真正面からヒノヒカリにぶつけるような戦略はとっていませんでした」
 その言葉を裏付けるように、森のくまさんが登場した平成9年には既に45%を超えていたヒノヒカリは、それ以降も徐々に作付面積を伸ばしている。平坦地では、森のくまさんの作付けが進み、平成28年産米では13.9%と、シェアを伸ばしたが、これに対しヒノヒカリも49・4%を維持しているのである。

高温障害に強いくまさんの力が導入されたが、思うようにシェアは
伸びなかった!

 そんな森のくまさんが、ヒノヒカリ以上の全国的に注目を浴びたことがある。一般財団法人日本穀物検定協会の食味ランキングにおいて、2012(平成24)年産の森のくまさんが最高得点を獲得するという栄冠に輝いたのだ。

「くまさんの力」の統一米袋

珍しいネーミングが消費者の心をくすぐったとこともあり、売切れ店が続出。入手困難という事態にまで陥ったのである。
「日本一になり、本当にうれしかった」と木下研究参事が当時を振り返り語っているが、それでもヒノヒカリの牙城は揺るがなかったのである。ちなみに同年度の2位には、熊本県城北産ヒノヒカリが入っている。
 熊本県産(城北・県北)のヒノヒカリは、平成20年度から9年連続で食味ランキングの特Aを獲得しており、九州を代表する極良食味米として評価が高い。ヒノヒカリは元々宮崎県で育成されたものであるが、「その名前が"火の国〟とも呼ばれる熊本県をイメージさせるため、熊本県で育成されたものという誤解をしている人もいる」と、宮崎県の米穀関係者が、渋い顔で語っていたこともあるほど、ヒノヒカリ=熊本というイメージが出来上がっているのだ。
 いずれにしろ、山麓準平坦地域のヒノヒカリを軸に、平坦地域の森のくまさん、高冷地域のコシヒカリと、適地適作の極良食味米が揃ったことで、熊本県の施策は盤石になったと思われたが、思わぬ落とし穴が待っていた。
 ヒノヒカリも森のくまさんも中生品種。ヒノヒカリと森のくまさんが、それぞれ山麓準平坦地域、平坦地域で作付面積のシェアを伸ばしたことで、結果、以前に比べ中生品種への作付けの集中が起こっていたのである。そこに持ち上がったのが、2003年頃から見られるようになった地球温暖化などの影響による出穂・登熟期における高温障害だった。その影響をまともに受けたのが、高温障害に対する耐性がなかった既存の中生品種だったのである。
 そして食味ランキングでは特Aを獲得している主力品種のヒノヒカリ、そして森のくまさんだったが、品質的には白未熟米ができ、1等米比率が50%台に下がることが常態化していくことに。ヒノヒカリだけでなく、森のくまさんもその影響を受けたのは、育成当時には高温障害の問題が起こってはおらず、高温障害に関しての耐性は考慮されていなかったためである。
 高温障害は、なにも熊本県だけの限った問題ではなかったことはいうまでもない。福岡県や佐賀県、長崎県でも同じような問題が起こり、それぞれが県の主力品種であったヒノヒカリの見直しを図っているという状況にあった。九州沖縄農業研究センターからにこまる(長崎県が積極的に採用)、福岡県では元気つくし、佐賀県ではさがびよりという高温登熟障害に強い品種が生まれ、徐々にではあるが、ヒノヒカリ一辺倒であった作付けの分散が図られていったのである。

県農業研究センターの風景(くまさんの輝き)


 熊本県でも、当然見過ごすことができない問題となり、品質等級があがらないことへの対策として2008年には、平坦地域、山麓準平坦地域に、耐暑性が強い新品種であるくまさんの力を投入している。
 くまさんの力は、ヒノヒカリを母に、倒伏に強く、品質が安定していた北陸174号を父に育成された品種。同じ中生品種ではあるが、ヒノヒカリ、森のくまさんと比較すると、耐倒伏性、耐暑性に優れた品種であった。
「高温の年に、ヒノヒカリは2等米の下の品質になってしまうが、くまさんの力は1等米を維持できる品質を持っていました。しかし……」と、木下研究参事が言葉を濁したが、ヒノヒカリ、森のくまさんに代る品種として世に送り出されたにも関わらず、思うようには作付けが伸びなかったのだ。そしてその原因を彼女は、次のように分析している。
「ヒノヒカリの食味を継いでいるので、極良食味。しかし、森のくまさんも同様ですが、交配上ヒノヒカリと同系統の食味になっていたので、インパクトに欠けたことが伸び悩みにつながったのだと思っています」と……。

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