『かもめ食堂』
かもめ食堂
Blu-ray 5,800円(税抜)
発売元:バップ
(C)かもめ商会 Photo 高橋ヨーコ
夏のある日、フィンランド・ヘルシンキに〝かもめ食堂〟という名の小さな食堂がオープンした。オーナーは日本人女性のサチエ(小林聡美)。シンプルで美味しいものと、食堂のメインメニューは、日本のソウルフード・おにぎりとしたが、物珍し気に覗く人はいるものの客はまったくこない状態。そして初めてのお客は、「ガッチャマン」の歌詞を知りたがった日本オタクの青年。どうしても歌詞を思い出せないサチエは、町の書店で見かけた日本人女性・ミドリ(片桐はいり)に「ガッチャマンの歌詞を教えて」と話しかけたことから、ストーリーは大きく動いていくことになる。
店を手伝うようになったミドリは、店を繁盛させようといろいろなアイデアを出すが、サチエはあくまでもメインは「おにぎり」というポリシーを崩さない。
しかし、ある日ミドリが思い立ってシナモンロールを焼くと、その匂いに誘われ、物珍し気にみていた近所の主婦たちが来店し、徐々に客が入るようになっていく。さらに、空港で荷物を紛失し、足止めを受けたマサコ(もたいまさこ)も店を手伝うことになり、店は徐々に繁盛していくのだった。
この映画で印象的な食べものといえば、おにぎりとシナモンロール。特におにぎりに関して、サチエが父との思い出を語るシーンは、おにぎりの国に生まれたことを喜びに思える名場面だ。
母を早く亡くしたサチエは、食事の支度などの家事をしていたが、一年に2度、遠足と運動会の日だけは、父親がおにぎりを作ってくれた。そして父親は、「おにぎりは、人に作ってもらった方が美味しいものだ」といったという。そして、「父親の握ったおにぎりがとても美味しかった」とサチエが語るのである。
また『かもめ食堂』の荻上直子監督は、『めがね』(2007年公開)という作品でも、素敵な舞台となった南の島の民宿「ハマダ」で、主人が提供する朝ごはんなど、素敵なごはん料理を多く登場させているで、こちらも必見だ。
(C)かもめ商会PHOTO 高橋ヨーコ
『南極料理人』
南極料理人
Blu-ray・DVD 各3,800円(税抜)
販売元:バンダイビジュアル
海上保安庁に勤務し、調理を担当していた西村(堺雅人)。南極観測隊として派遣されることが決まっていた先輩が直前に事故に遭ったことで、観測隊の調理番として、1年半の任務を余儀なくされることに。しかも赴任地は、昭和基地から1000kmも離れたふじ基地。ペンギン、アザラシもいなければ、ばい菌さえ存在しない過酷な環境にあった。
隊員は西村を含め、個性的な8名。当然、観測隊員は単身赴任で、それぞれ家族や恋人を日本に置いてきている。西村にしても、妻や娘、生まれたばかりの娘を残してきているのである。そのため隊員それぞれが、心に鬱屈したものを持っているだけでなく、極限での生活は時間が経つにつれ、ストレスや疲れが溜まり、トラブルの発生を余儀なくされる。隊員が軽い凍傷になったり、食に関していえば、ラーメン大好きなタイチョーらが、こっそりラーメンの盗み食いを始めたり……。
それでも8人は互いに協力し合い、帰国する日のことを思い、南極生活を送っていくのである。西村もまた、限られた食材や特殊な環境の中でも、隊員たちに飽きさせずに美味しいメニューを提供しようと奮闘していた。
この作品に登場するメニューは実に多彩。さわらの塩焼き、納豆といった朝定番のメニューもあれば、ステーキや本格的な(?)フランス料理や中華料理も登場する。昼食に登場した眼鏡が曇る熱々豚汁とおにぎりの組み合わせなどは、寒い南極生活では絶品料理であり、隊員たちの間には、思わず笑顔がこぼれるのである。これらはすべて、西村の創意工夫によって生まれたもの。
そして度胆を抜かれるのが、巨大な伊勢エビフライ。そして、一度は材料が在庫切れになったにも関わらず、復活したラーメンも見どころの一つとなっている。どのように材料を手にしたかなどは、映画を観てのお楽しみ。
スクリーンに登場するメニューが食欲を刺激するだけでなく、毎日の生活の中、ごはんには、ここまで人を幸せにする力があるのか!という感動さえも与えてくれる作品なのだ。
(C)2009『南極料理人』製作委員会
『お茶漬けの味』『秋刀魚の味』などの小津安二郎作品
『小津安二郎の食卓』
(貴田庄著、ちくま文庫、版元品切れ)
イギリスの雑誌で『東京物語』(1953年)が世界一の映画に選ばれるなど、日本を代表する映画監督である小津安二郎の作品には、印象的な食事シーンが数多く登場する。その理由としては、彼の大半の作品が庶民の生活を描く、ホームドラマであることが上げられる。庶民にとって、食事は大事な日々の営みの一つ。それだけに、彼は家族で囲む食卓だけでなく、寿司屋や鰻屋などでの外食を含め、数多くの食事シーンを作品に登場させているのである。
『お茶漬けの味』(1952年)は、地方出身の素朴な夫と、野暮な夫にうんざりする上流階級出身の妻の擦れ違い模様と、二人の和解を軸に描かれた作品だ。この作品には、タイトルにもお茶漬けとなっている夜中に夫婦二人で作り、一緒に食べるシーンがある。夫は「夫婦は、このお茶漬けの味なんだ」と口にし、妻は夫のありがたさや結婚生活の素晴らしさに気付くのである。
妻に先立たれた初老の父親の老いと孤独、婚期を迎えた娘との関わり描いた『秋刀魚の味』(1962年/小津の遺作)という作品には、不思議なことに、実際にサンマを食するシーンは登場していない。登場するのは、同じ細長い魚でも鱧である。ではなぜ、タイトルを『秋刀魚の味』にしたのかを問われた際、小津監督は「サンマは安くてうまいからね」と答えたという。
これらの作品以外でも、庶民のごちそうであり、小津自身の大好物の一つだったとんかつを始め、ラーメン、カレーライス、うなぎ、寿司などを食べるシーンがスクリーンを彩っている。どの作品に、どんなメニューが登場するのかという視点で、小津映画をもう一度観なおしてみるのも楽しい。
また、小津作品と食事に関する話は、貴田庄著『小津安二郎の食卓』(ちくま文庫、版元品切れ)に詳しく書かれているので、ぜひ参考にしてほしい。