和食という言葉を聞くと、料亭や割烹の懐石(会席)料理などを思い浮かべ、敷居が高いものと思いがち。しかし基本となっているのは、日本人の主食である「ごはん」に「汁物」と3つの「菜(おかず)」を組み合わせた「一汁三菜」の献立です。そう、日本食レストランや食堂で出てくるいわゆる「定食」が基本となっていると考えれば、とっつきやすいかもしれませんね。和食は、栄養バランスにも優れた献立――東京オリンピックで日本を訪れる外国人観光客へのおもてなしだけでなく、子どもたちにも和食の素晴らしさを伝えていきましょう。そのためにも、基本となる考え方やマナーを学んでおきたいもの。
- 指導・監修/宗像伸子
- 女子栄養短期大学専攻科卒業。管理栄養士として、山王病院、半蔵門病院に長年勤務。ヘルスプランニング・ムナカタ主宰。東京家政学院大学客員教授。正しい食生活のあり方を中心に、幅広い栄養指導、講演活動を行っている。「NHKきょうの料理」「NHKきょうの健康」などテレビ、ラジオ、雑誌、新聞などでも活躍。近著に『50歳からの健康ごはん』(海竜社)がある。
「一汁三菜」の基本的な考え方
身体の必要な「エネルギー源」「血や筋肉を作る」「調子を整える」を担う3つの栄養素をバランスよく摂ることができる献立にすることが大事です。毎食必ず「一汁三菜」である必要はありませんが、身体のことを考えれば、1日のうち2食は意識して摂ってほしいもの。外食が多い人は、定食を注文するように心がけると実行しやすいかもしれませんね。
- 主食
- エネルギー源となる炭水化物(糖質)を補給。白いごはんが基本となります。ごはんの60%は水分、そしてよく噛むことで腹持ちもよく、パンとは違いごはん自体には塩分が含まれていないので、減塩食としても相応しい主食といえます。
- 汁物
- 水分補給やお口直しするためのもの。味噌汁やお吸い物がそれにあたります。味噌汁の場合、具だくさんで食べ応えのあるもの、例えば豚汁のように野菜や肉、大豆製品などのたんぱく源を組み合わせれば、食事全体の栄養バランスをアップすることができ、おかずを一品減らすことも可能に。
- 三菜
- 主菜1品、副菜2品で構成。いわゆるおかずで、主食を美味しくいただくためだけでなく、主食・汁物で不足している栄養素を補います。もちろん、栄養さえしっかり摂れていれば、おかずの数は問題ではありません。はじめに主菜を何にするかを考え、副菜選びをすればスムーズにいきます。基本的な組み合わせは以下のようになります。
- 主菜(1品)
- 血や筋肉を形成するのに必要な動物性・植物性たんぱく質を含んだ、肉、魚、卵、大豆などを使った料理――メインディッシュと考えます。
- 副菜(基本2品)
- ビタミン、ミネラル、食物繊維を含んだ、緑黄色野菜、淡色野菜、豆類、芋類、海藻などの煮物や和え物、おひたしで構成するとバランスがとれます。主菜がハンバーグやステーキなどの場合、ニンジンやインゲンなどの付けあわせも、副菜の一つと考えて差し支えありません。
*副菜(煮物)、副々菜(酢の物や和え物)などと分けるケースもあります。 - 香の物(漬け物)
- 和食で漬け物は副菜にカウントされません。しかし、香の物を用意しておけば、野菜の栄養素の一部を補えますし、独特の旨みが加わり、献立がさらに美味しくなります。
副菜は作り置きするなどの工夫を!
主菜がフライなど揚げ物、炒め物の場合は脂質摂取が増えるので、副菜は抗酸化成分や食物繊維がしっかり摂れる油を使わない和え物やおひたしなどがおすすめ。また、蒸し物や茹で物といった低脂肪のものを主菜にする場合は、副菜で少しボリュームをつけてもOKです。忙しい暮らしの中で、3つもおかずを作るのは大変な場合も多いですね。納豆やお豆腐などの加工食品などを常備したり、週末など時間がある時に作り置きしたりしておけば、その負担は軽くなります。
和食の味を最大限生かす三角食べと口中調味!
和食が無形文化遺産に登録され、様々な形で日本の味が海外進出を果たし、お箸を上手に使いこなす外国人の姿も珍しくなくなってきています。しかし、ごはんを主食とした一汁三菜の本当の味わい、食べ方の海外進出はまだ道半ばともいわれているのです。
和食の特徴的な食べ方に、ごはんとおかず、汁物を交互に食べる三角食べスタイルとそれによって得られる「口中(内)調味」があります。味付けされていない白いごはんを口の中で咀嚼しながら、他の一汁三菜で味付けしていくものです。
欧米ではフレンチやイタリアンのコース料理に代表されるように、一つひとつの皿を平らげながら食事が進んでいきます。いわゆる、そればっかりを食べる「ばっかり食べ(一丁食いとも呼ぶ)」なのです。三角食べをした場合の口中調味は、ばっかり食べより味への感受性を高めるともいわれています。これはおかずを口に入れる量や、順番などによって、味が微妙に変化するからにほかなりません。
また、ごはんだけを食べるよりも、噛む回数が増え、唾液量が増えるなどによって、早く満腹感を感じられ、食べ過ぎや脂質の摂り過ぎなどを防ぐのにも効果が期待できるといわれています。ただし、この場合、三角食べの定義として入れておきたいのが、ゆっくりと、少しずつということ。少なくともこの方法で食事したケースでは、早く食べている人よりも肥満が少ない、体重増加が少ないという研究結果も複数出ているのです。
しかし残念なことに、近年「ばっかり食べ」が増えたため、この特徴的な食べ方(口中調味)に適応できない子どもが増えているという調査報告がなされています。無形文化遺産にも登録された和食文化は、本来この食べ方を含めた文化。しっかり、子ども世代に受け継がれるようにしていきたいものですね。そしてこのごはんを主食とした一汁三菜の献立を、さらに美味しいものにするための最後の調味料は、「子どものために、家族のために」とひと手間かけるお母さんの愛情であることはいうまでもありません。
豆知識①幕の内弁当+味噌汁で、一汁三菜を!
コラム
箸づかいはその人の「心」を表わす
お箸文化と日本人の精神性をメディアにお伝えし始めて20年近くたちますが、正しく持って美しく接している人は、2割未満というのが実情です。世界で和食が人気になったのに、もったいないなあと感じます。
箸を主に使って食事をする国は世界の人口の約3割です。その中でも日本は箸と独特な付き合い方をしています。
もともと日本の箸は神様用として用いられ、「神器」として大衆は使えない高貴なものだったとされています。そのため、現代も伊勢神宮の新嘗祭では神にお供えするものの最初に箸が添えられています。ですから日本は、箸や料理を粗末にしないよう箸マナーや嫌い箸(してはいけない箸づかい)もたくさんあります。
例えばかき込んでご飯を食べる「かきこみ箸」を避け、ていねいにご飯をつまんで食べることで、稲作文化や農業への感謝の心をしめすのです。米とともに生きてきた日本だからこその「美しい食べ方」が箸のマナーなのです。
また、「箸は人柄を表す」といわれるように、日本は自分専用の箸を持ち他人と共有しませんが、これは世界でも実は珍しいのです。さらに仏さまの枕元の「仏箸」などの慣習や、正月には祝箸を使うなど、たった2本の棒に喜びや悲しみ、感謝、願いなどを添えてきた国なのです。
お箸が持てなくても美味しいものが食べられる現代ですが、箸は人の「心」を表すもの。海外からも注目されている箸。身近なものだからこそ、美しい箸づかい、見直してみませんか。
(株)トータルフード代表取締役、亜細亜大学講師、日本箸文化協会代表
小倉朋子