スタミナは、体力、精力、または持久力を指します。このスタミナを左右するのが糖質の働き。糖質は、体内で分解されることによってエネルギーになり、力を発揮する原動力となるのです。そして、その働きを正常に機能させるためには、いくつかの栄養素が必要となってきます。それをバランスよく摂れてこそ、「真のスタミナ丼」と呼べるのです。
調理・栄養指導/宗像伸子
糖質=炭水化物の摂取不足は、スタミナ不足に直結!
糖質=炭水化物は、タンパク質、脂質と並んで、からだに欠かせない三大栄養素の一つ。糖質といえば「肥満の原因」と決めつける人がいますが、それは摂り過ぎた場合の話。糖質が体内で分解されてブドウ糖になり、血糖として体内に送られ、さらにグリコーゲンに合成され、筋肉や肝臓に貯蔵。そして、からだや脳がエネルギーを必要とする際に、供給されるのです。そのため、もし糖質(炭水化物)を必要量摂らなければ、からだや脳はエネルギー=スタミナ不足におちいり、活動量の低下を招いてしまいます。
エネルギーを持つ三大栄養素、糖質・脂質・タンパク質には、
それぞれに個性があります。
- 炭水化物(糖質):
- 脂質やタンパク質よりも燃えやすく、速やかにエネルギーとなるので急激な運動時には最適な栄養素。
- 脂質:
- エネルギー量は糖質・タンパク質の2倍。エネルギーあたりの容積が小さく、水分をほとんど伴わず体内に取り込まれるので、貯蔵エネルギーとして最適。
- タンパク質 :
- カラダの基になる栄養素。エネルギーとしては糖質や脂質が消耗した場合に使われます。
スポーツに限らず、デスクワークをしているとき、甘いものを摂ると頭がスッキリするのは、炭水化物や砂糖、果物から摂った糖質が、短時間でエネルギーとなり、一時的にスタミナ不足を補うから。本来は、糖質(炭水化物)をしっかり摂り、スタミナ切れを起こさないように、貯蔵していくことが必要となってくるのです。
糖質を正しくエネルギーに変換するために必要な栄養素
ただむやみにごはんなどで、糖質(炭水化物)を多く摂ればいいというものではありません。ここで重要となってくるのが、ビタミンB1の働き。
ビタミンB1はごはんなどで摂取した糖質の分解を助けるだけでなく、肝臓や筋肉のグリコーゲンをエネルギーに変えるときにも、媒体として働きます。ですから、十分にビタミンB1が摂れていないと、グリコーゲンがエネルギーとして不完全燃焼を起こし、糖質が足りていても、スタミナ切れを起こしてしまうのです。
このビタミンB1の吸収を高めてくれる栄養素もあります。それがアリシン。アリシンは自然の状態では存在しませんが、刻んだり傷つけたりすることで、アリインが酵素アリナーゼと反応して作られる硫黄化合物の一種。ニンニク・ネギ・タマネギなどのユリ科ネギ属の植物でできるもので、強烈なニオイや涙の元となっている物質といえば分かりやすいかもしれません。
アリシンには強力な抗酸化、抗菌作用があり、病気への抵抗力や血栓の予防・改善効果などが知られていますが、スタミナ丼おいても、必要不可欠な働きをしてくれるのです。
ビタミンB1は水溶性で熱に弱い性質。基本的に、調理における損失が多く、食材に含まれる総量のうち1/3~1/2は失われるといわれています。しかし、アリシンを含むタマネギやニンニクといっしょに調理すると、ビタミンB1と結合しアリチアミンとなり、損失が少なくなり吸収されやすくなるのです。また、ビタミンB1は必要量以上に吸収されませんが、アリシンがあると、小腸でどんどん吸収され、肝臓に貯えられていきます。
アリシン以外では、レモンなどの柑橘類や、トマトに多く含まれるクエン酸も、ビタミンB1との相乗効果が高い栄養素。クエン酸を一緒に摂ることで、ビタミンB1の働きを促進してくれるのです。
すぐバテやすいのは、鉄の不足によるものかも?
運動をするとすぐバテてしまったり、貧血を起こしたりしやすい人は、鉄分不足かもしれません。鉄は、酸素を全身に運んでくれる血液中のヘモグロビンを構成している成分。また筋肉中にあるミオグロビンの構成成分としても存在し、酸素を運び、貯蔵しています。
運動するときに主に使用するエネルギーは、体内に蓄積されたグリコーゲンと体脂肪。グリコーゲンは即エネルギーになりますが、貯蓄量が少ないと、人のからだは、体脂肪をエネルギー源として利用するようになります。ところが、この体脂肪をエネルギーとして使うには酸素が不可欠=血液中のヘモグロビンが必要になるのです。
このため鉄不足は、<ヘモグロビンの不足→酸素がうまく運べない→体脂肪をエネルギーとして利用できない→スタミナの低下→バテる>という構図を生み出すことに。
鉄は体内への吸収率も低く、日常の食生活では不足しがちな栄養素。ビタミンA、ヨウ素と並ぶ世界の三大欠乏微量栄養素の一つとして問題視されており、日本も例外でないのです。また、大量に汗をかくことでも失われがちです。スタミナ維持のためにも、鉄の積極的な摂取を心がけましょう。
ちなみに、鉄は肉や魚など動物性食品に多く含まれるヘム鉄、穀類、海藻や緑黄色野菜に含まれる非ヘム鉄に分かれます。非ヘム鉄はヘム鉄より吸収率が低いという欠点があり、一般に日本人が食事から摂取する鉄の85%以上が吸収率の低い非ヘム鉄なのが現状。このためビタミンCと一緒に食べ、吸収力をアップさせることも必要です。
また、ヘモグロビンを作るにはタンパク質も必要になるし……最終的には、スタミナ丼に求められるのは、栄養バランスのよいメニューというのが基本になるのです。
コラム1
スタミナをつけるために必要な4つの栄養素と
それらを多く含む主な食材
- 糖質
- ごはん(白米・玄米など)、麺類、パン類、ジャガイモ、長イモなど。
- ビタミンB1
- 肉類のモモやヒレなどの部位。特に豚肉には多い。魚では鰻や、タラコなど。穀類では小麦胚芽や玄米。
野菜では大豆や枝豆などの豆類。また焼き海苔、ゴマにも多く含まれる。 - アリシン
- タマネギ、長ネギ、ニンニクなどのユリ科の野菜。ただし、自然な状態で含まれているわけではない。
- 鉄分
- 肉なら豚肉・鶏肉のレバーなど。魚貝類は煮干し、鰻の肝、アサリの佃煮、干しエビ、シジミなど。
海藻類は乾燥ひじき、乾燥青のり、焼き海苔など。野菜ではパセリ、唐辛子、つまみ菜、小松菜など。
監修・調理/宗像伸子
女子栄養短期大学専攻科卒業。管理栄養士として、山王病院、半蔵門病院に長年勤務。ヘルスプランニング・ムナカタ主宰。東京家政学院大学客員教授。正しい食生活のあり方を中心に、幅広い栄養指導、講演活動を行っている。「NHKきょうの料理」「NHKきょうの健康」などテレビ、ラジオ、雑誌、新聞などでも活躍。近著に『50歳からの健康ごはん』(海竜社)がある。