第二回「ゆめぴりか」でブレークした北海道米。 寒冷で、広大な大地ならでは苦労と挑戦秘話(後編)

「ふっくりんこ」の登場


「きらら397」と「ななつぼし」のキャラクター

 「きらら397」「ほしのゆめ」「ななつぼし」とは、別系統の品種開発も行なわれており、平成15年(2003年)、「ふっくりんこ」が道南地方で登場している。その生い立ちは、他の北海道米とは異質である。

 そもそも、「ふっくりんこ」は秋の長い道南地方で晩生品種として開発された品種であった。ふっくらとした味わいから「ふっくりんこ」と命名され、こだわりの地域限定品種としてスタート。ブランド化に向けては、より選りの生産者がより選りの土地で栽培することを前提とし、生産者自らが「ふっくりんこ」の生産者を互選する生産者主体の初の組織である「函館育ち ふっくりんこ蔵部(くらぶ)」が設立された。
 加えて、タンパク質の含有率など、厳しい生産基準を設定、地産地消に特化した。後に、「函館育ち ふっくりんこ蔵部(くらぶ)」は、第40回日本農業賞特別賞を受賞する。

 







 地域での売れ行きは好調であった。当初は、通年販売の量が確保できないほどであったが、品質・食味維持にこだわり、生産者が自ら決めた生産条件を曲げず、作付けの拡大には慎重に対処した。

 その後、「ふっくりんこ」の噂は全道に広がり、平成16年(2004年)からは北空知地区での試験栽培が開始された。もちろん、道南地区での生産基準が順守されたことはいうまでもない。
 かつてホクレン函館支所で「ふっくりんこ」の振興に取り組んでいた相川誠は「いかに生産者を巻き込むか、生産者が頑張らないと、作れないシステムを大事にしたい。上が決めるのではなく、生産者自らが決めたことが肝心だから」と当時を振り返っている。
 そのため、良質であり、高級ブランド米としての素養はあるが、生産基準の遵守が絶対であったため、生産量が少なく、今だ、全国展開するには至ってはいない。











 

「おぼろづき(八十九)」、しかし・・・






 「ふっくりんこ」が登場した2年後の平成17年(2005年)、「おぼろづき(八十九)」は誕生する。

 北海道初の高級ブランド米として、ホクレンは、「おぼろづき」を「八十九」という独自ブランド名での展開を実施し、市場評価を得た。「八十九」とは、米作りには88の手間がかかるという「米」という漢字の由来に、もうひとつ上のおいしさという意味がこめられていた。
 しかし、残念ながら「おぼろづき(八十九)」は「ふっくりんこ」のような生産基準などの対策が十分講じられなかったため、食味のバラツキを招く結果となった。
 そのため地産地消の「ふっくりんこ」に対して、「おぼろづき(八十九)」で、北海道米初の高級ブランド米の全国展開を図ろうと思惑は、脆くも頓挫してしまったのである。









 

「すいません、『ゆめぴりか』って何ですか?」






 

 「おぼろづき(八十九)」の挫折を経験したが、「高級ブランド米で、日本一」は、北海道の稲作に関わる生産者、官民問わず、共通の夢となった。
 その夢を託す品種として開発されたのが、「ゆめぴりか」だった。
つややかで、美しい炊き上がり、甘みに加え濃い味わい、ねばりもある。北海道の既存の品種が成し得なかった高級ブランドへのアプローチには、絶好の品種に生育していった。
 上川農業試験場で、「ゆめぴりか」の開発に携わった佐藤毅は、「ゆめぴりかは、おぼろづき(八十九)同様に、やわらかくて粘った美味しさで、新しいタイプのお米として味わってほしい」と語る。
 しかし、「おぼろづき(八十九)」の二の舞になってはならない。そのために、道南地区で成功した「ふっくりんこ」の生産戦略を、全道挙げて取り組むことにした。
 平成20年(2008年)に40農協、50ヵ所での試験栽培を開始し、「ふっくりんこ蔵部(くらぶ)」の成功例にならって、翌21年(2009年)1月に生産者主体の協議会「北海道米の新たなブランド形成協議会」を立ち上げた。そこで同年7月には生産誘導に不可欠な「暫定品質基準」を決定するに至った。
 しかし、道南限定での取り組みであった「ふっくりんこ」に対して、「ゆめぴりか」は全道。広大な北海道での展開であったため、種子の配分などに苦労が絶えなかった。
 そして平成21年(2009年)10月、満を持して北海道米の最高峰として「ゆめぴりか」はデビューすることに。しかし、その年の北海道は冷害。品質基準に達するものが、出荷量の1割に当る1,000㌧にとどまり、消費者へ十分な供給ができなかった。お詫びの広告を掲載して、1ヵ月で販売を終了した。中途半端な販売をせず、品質を守ることを貫いたのだ。
 平成23年(2011年)、「すいません、『ゆめぴりか』って何ですか?」というフレーズとともに、全国デビューする。この年の天候にも恵まれた「ゆめぴりか」は、その実力を発揮し、全国有数のブランド米としての高い評価を得るに至った。
 

「ゆめぴりか」、今後





 「北海道米の新たなブランド形成協議会」は、「ゆめぴりか」の協議会として、スタートを切った。しかし、その名前通り、この協議会は「ゆめぴりか」に特化した協議会ではない。「ゆめぴりか」に完結するものではなく、今後も継続していくこととしている。
 ホクレン米穀部長の本田千晴は「平成25年産米からのスローガンは『北海道を米どころ日本一へ。』。『ふっくりんこ』『おぼろづき(八十九)』『ゆめぴりか』を開発したことで、府県産米と競う武器はそろった。しかし、そのことで満足してはいけない。『ヤッカイドウ米』を脱却した今だからこそ、原点に戻って、稲作関係者一同で、次のステップを目指していかなくてはいけない」と語る。
 また佐藤毅も、「まだまだ『ゆめぴりか』が最終着地点ではない。さらに耐冷性に優れ、いもち病に強く、そして冷めても美味しい品種を開発したい」と語っている。この彼らの言葉は、北海道米としてのブランド向上に挑戦する関係者の願いでもあるのだ。
 次にどのようなブランド米が登場し、全国を席巻していくのか、今後の北海道米の動向には目が離せない。
(文中:敬称略) 





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