まだまだ厳しい練習環境だが、
選手たちは切磋琢磨し、それを乗り越えた!
ソチオリンピックを経験したことで浮き彫りになった3つを解決するために、選手だけでなく、監督をはじめとするスマイルジャパンのスタッフが知恵を絞りだしたことはいうまでもない。
フィジカルの強化への取組み
軸をブレさせずに、踏ん張る独特な体幹トレーニング、また積極的にウエイトトレーニングを取り入れるなど、徹底した筋力強化を図った。その結果、体幹だけでなく腕力、脚力などのフィジカルが強くなり、俊敏性(スピード)もアップ。それが試合でも、攻めと守りの切り替えの早さや得点力アップとなってあらわれてきた。
中村:私たちは早いシュートを打つ時、スティックを一度引いて、その反動を使いますが、トップ選手の中にはモーションなしのスナップショットで、早いシュートを打てる人もいます。私自身は上半身をメインに鍛えてきましたが、まだまだその域にまでは、到達していないかもしれません。なので、さらに鍛えていきたいと思っています。
懸垂は最高23回までできるようになりました。体格に勝る選手の肘などがあたっても、「私は石だ!」と思って、ゴール前から動かない体力がついたと思います。
メンタルの強化への取組み
現在、18~35歳という年齢層で構成されている現在のスマイルジャパン。メンバーそれぞれが、コミュニケーション班、アイデア班、チームビルディング班、分析班という役割を担当することで、世代を超えて積極的な意見交換をするようになった。
足立:私はコミュニケーション班です。
中村:私は新たな試みを提案するアイデア班。
岩原:ゲームをして、チームを一つにしたり、最終予選の時などは、メンバー個々のプレイで良かった所をまとめ、冊子にしたり……。どの班に属しているにしろ、いろいろと話し合うことで、チームの融和が生まれています。
中村:そして私たちは、もう〝ちゃんズ〟(どうやらオバちゃんズということらしい)なので、チームをまとめていかないとね(笑)。
また専任のメンタルコーチが付き、常に選手の精神状態を把握して、的確なアドバイスをチームや個人に与えることで、積極性が生まれ、1点を争う緊迫したゲームでも、気後することなく、チームワークで乗り切ることに成功している。
フィジカル&メンタルに関しては、選手個々人&スタッフの努力で改善・解決されていったが、生活環境に関しては、かなりの苦労があったことが伺える。それは女子サッカーの"なでしこジャパン〟の選手たちがワールドカップで優勝し、世の中に認知されるまでに味わった苦労に似ているといってもよい。
厳しい生活環境への取組み
中村:メジャーなスポーツとは違い、企業の理解が得られなかったことが大きかったと思います。ソチオリンピックへの出場が決定する前は、代表合宿や遠征のために休まなくてはいけないので、正社員になれない選手も多くいましたね。そのため生活費や遠征費を稼ぐために、バイトを2つ掛け持ちする人もいたほどでした。
所属チームや代表チームの練習は、みんなが集まれるバイトや企業の就業時間後の21:45~23:15という、普通では考えられないような時間帯に行なわれていた。その後に、選手たちはコンビニで買ったおにぎりを晩ごはんとして頬張り、帰宅してベッドに入るのは2時頃になることあったとか。
しかし、ソチオリンピックの出場を決めたことで、女子アイスホッケーの認知度が上り、その環境は徐々に改善方向に向かったといってよい。企業と現役アスリートをマッチングさせ、安心して競技に取組める支援制度――JOCのアスナビ*を利用し、企業で正社員として働くことになった選手も多く生まれた。中村選手しかり、岩原選手しかりである。
中村:私もアスナビで、ソチオリンピックの前には、今のバンダイに就職できました。生活は安定したし、その前に比べれば、夢のような環境です。
岩原:私の場合は、実家が都内にあったのでアミよりは環境的に恵まれていましたが、今の会社(市進ホールディングス)に就職できたことで、精神的な負担が減りましたね。
とはいっても、まだ練習は就業時間後の夜間。遠征費などの自己負担はなくなったが、高価なスケート靴や防具類などは自前で揃えているのが現状だ。
足立:理想をいってもキリがありません。ただ今後の女子アイスホッケーを考えるなら、今は10試合程度しかない国内リーグ戦がもっと増えるような環境になったらと思います。トップを争う海外では、毎週土日には試合があるというのが、普通ですから。
*アスナビ/企業と現役トップアスリートをマッチングする、2010年に始まったJOCの就職支援制度。安心して競技に取り組める環境を望むトップアスリートと、彼らを採用し応援することで、社内に新たな活力が生まれることなどを期待する企業との間に、Win-Winの関係を築いていくことを目的にしている。女子アイスホッケーメンバーだけでなく、多くのトップアスリートがエントリーし、企業への就職を決めている。
コラム2
アイスホッケー最大の見どころとは?
アイスホッケーで使用されるパックの重さは150g~170gで、タマゴ約3個分。プレーヤーが打ったパックは、氷上を回転しながら滑り、ときには空中に浮きあがる。その速度は日本人プレーヤーで時速140㎞、世界の男子トッププレーヤーになると170㎞に達することも。このスピード感が観客の心を捉えて放さない魅力となっている。そしてもう一つの魅力が、重さ10kg以上の防具をつけた選手たちによるパック争奪を巡る激しい接触プレイ。この迫力は、生半可ではなく「氷上の格闘技」とも呼ばれている。