米・食味分析鑑定コンクールで4年連続金賞を受賞し、「日本一おいしいお米を作る生産者」として有名な、山形県高畠町の遠藤五一(えんどうごいち)さん。高畠町は有機農業発祥の地でもあり、古くからの田園風景が今もなお色濃く残っている町です。この町は寒暖の差が大きい盆地で、お米作りに適した土地と云われています。遠藤さんは、米作りに必要不可欠な水を最上川から流れる冷たく清らかな伏流水を利用し、自然や環境に負荷をかけない米作りを実践されています。この度、私達「ごはん彩々」は、米作りの名匠と呼ばれるまでに至った、米作りへの苦労やこだわり、そして全国の米生産者を支援するための取り組みなどについて伺ってきました。
遠藤 先祖代々受け継がれてきた土地を引き継ぎたいという思いはありました。雪が多い冬は、スキー場や酒蔵で働き、春からは米作りをしていました。
次の世代にも今ある自然を受け継いでいくためにも、近年はあまり見ることのできなくなった、「杭掛け(はざかけ)自然乾燥」という方法でも乾燥を行っています。
弥生時代から脈々と続いてきた米作りの田園風景を伝えるため、稲作文化の継承は人から人への伝達だと捉えています。(敬称略)
遠藤 現在、私の水田では①JAS有機米、②特別栽培米(農薬化学肥料不使用)、③特別栽培米(農薬化学肥料7割減で除草剤1回使用)の、3つの方法を取り入れています。
※ JAS有機栽培米:一定の農場(農林水産省認定の機関に届け出が必要)で3年以上農薬や化学肥料を使用しないで栽培したお米
※ 特別栽培米:農薬化学肥料を5割以上減らして栽培されたお米(10割減でもJAS有機栽培米以外は特別栽培米になります)
遠藤 私が有機農業を始めようと一念発起したのは1986年(昭和61年)のことです。当時は、上記の栽培方法で米を作っている農家は各都道府県で1軒あるかないかくらいでした。JAS有機米を作るには、農薬や化学肥料不使用の農場での栽培を3年以上継続し、工程表や投入資材の一覧も提出することなどが条件になっています。雑草取りや虫の駆除も、農薬に頼らず忌避材(虫を殺傷することなく遠ざける資材)を自分たちの手でやらなければならないので、非常にハードルが高く、日本国内では最高レベルの栽培方法になります。いいことだと分かっていても、葛藤はありました。今まで年間10aあたり11俵収穫できていたものが、質を求めれば量が減り、自分の収入も減ってしまうことになります。しかし、米作りへのこだわりと信念を持って育てた米の価値をきちんと伝え、毎年再生産が可能な価格で販売出来るよう努力することで、継続可能な農業を目指しました。
※ 1a:10m×10m = 100㎡
遠藤 水田での栽培方法では、私はJAS認証の肥料や資材をすべての耕作面積に投入しています。人が体内で作ることができない成分に「ミネラル」がありますが、ミネラルの資材も投入することで、米の機能性も高めています。それから糠(ぬか)を使った堆肥(完熟)を投入し、安全性を重視した米作りをしています。また、米を乾燥させるときは通常、乾燥量に合わせて機械が自動的にセットした50~55℃で、時間を短縮するのが一般的なやり方のようですが、それでは食味が落ちてしまいます。私は、遠赤乾燥機を2台導入することで28℃の低温乾燥を行い、食味が落ちないようにしています。私の田んぼには、タニシやヤゴ、ゲンゴロウなどさまざまな生き物が生息していますし、トンボもたくさん飛んでいます。この時期(2018年7月時点)トンボは涼を求めて高い山の近くを飛びますが、秋になると赤トンボ(アキアカネ)になって田んぼに戻ってきます。こうしたさまざまな生き物たちがいるのも、ストレスのない良い環境で米作りをしているからだと自負しています。
彩々 米作りは1年がかりの本当に大変な仕事だと思いますが、特に苦労されているのはどのようなことですか?
遠藤 とにかく草むしりは大変です。腰をかがめた姿勢で、田んぼの雑草を取らなければなりません。そのままにしていると、イネに与えるべき栄養分も吸い取られてしまいますから。紙マルチ(田植え時に水田に敷き、日光を遮断し雑草の成長を抑制する除草方法)を取り入れながら雑草抑制もしていますが、それでも十分ではないので、自分で草取りをしています。
主な雑草は、イネとよく似たヒエです。イネと同じ環境で頑丈に育っていますから、抜くのも一苦労です。草で顔や腕が切れるので傷だらけになるほどです。毎年、大学生や消費者の方々にも手伝ってもらっています。どの農業でも言えることだと思いますが、農作物作りに同じ天候はありません。毎年、オンリーワンの米です。今年成功したやり方でも、来年は通用しないかもしれない。一年一年が真剣勝負です。
遠藤 米の値段はどんどん下がってきていましたので、取り引きしている業者さんから、米の客観的な評価を提示することを求められるようになってきていました。自分で作った米のブランド力を認知してもらうためにも、挑戦してよかったと思っています。
彩々 米作りに関して、現在取り組んでいることを教えてください。
遠藤 後継者や人手不足でなかなか思うようにいかない生産者は全国に多く、特に手間のかかる米作りであればなおさらです。私は、全国の市町村からの要請を受け、直接現地に赴き、より良い米作りが継続できるように支援しています。このほか、農業高校や小学校などの教育機関にも出向き、米作りについて話す機会もいただいています。また、生産者と消費者の距離を縮めるために、消費者の方に実際に田んぼで農作業をしていただき、米づくりへの理解を深めていただいています。
遠藤 私がカンブリア宮殿(テレビ東京)に出演した後に、病気の息子さんを持つある母親から連絡をいただいたことがあります。「病気で食欲が落ちている息子に、おいしいご飯を食べさせたいので、遠藤さんのお米を、少し分けてほしい」という依頼でした!生きる事は食べる事。つまり、口に入るものは全て人間を形成しているので、米作りをする者として、いい加減な気持ちではできないと、いっそう身の引き締まる思いでした。「作物と努力は嘘をつかない」そういう思いで、日々米作りに向き合っています。
最近の消費者の方々は、健康に関する知識を身に付けられ、舌も肥えた方が増えてきていると感じています。口から入るものは、すべて私たちの血となり肉となります。お米も当然その一役を担っているわけですが、近頃は「白米を食べると太る」と思っている方もいるようです。ですが、それは間違った情報が広まってしまったものだと思います。実際に、米の消費量が減っている現在の方が、肥満や病気が増えている点からも、そう言えるのではないでしょうか?ぜひ積極的に主食であるお米を食べてほしいと思います。それが、日本の食卓と生産者を守ることにつながり、ひいては地域保全に貢献することになるのではないでしょうか?その国の主食が滅びることは、その国が滅びることだと、私は思っています。
米作りへのたゆまぬ努力と日本の田園風景の継承への使命感が、遠藤さんの柔らかい口調からも伝わってきました。米作りに対するブレることのない取組みと愛情が、お米をより一層おいしくしているのでしょう。大切に育てていただいた、私達の一番身近にある素晴らしい食糧「お米」!!
ぜひ、皆様に美味しい「ごはん」を沢山炊いていただきお召し上がりいただきたいと思います。そして、皆様の日々の食卓が幸せでありますようにお祈り申し上げます。彩々staff
炊き方や保存方法は、ごはんの美味しさを左右する重要なポイントになります。
「ごはん彩々」では、HPで詳しくご紹介させていただいていますので、「彩々炊飯術」を是非参考にしてみてください。
※遠藤五一さんの田んぼの様子は「楽しむ」の「お米の応援団ー遠藤五一さんのお米」でご紹介しています。ユーチューブ動画などたくさんの取材記事があります。ぜひ、ご覧ください。
~ 昭和61年から有機農法に取り組む ~
・菊池米ブランド推進協議会の良質米づくり水稲栽培技術指導員
・山形県上和田有機米生産組合前組合長
・山形県高畠町農業委員
・山形県「つや姫マイスター」「つや姫大使」※2つの称号を持つのは日本で一人
・鳥取県江府町「奥大山プレミアム特別栽培米スーパーアドバイザー」
・千葉県木更津市「木更津農協にこまる研究会指導員」
・ETV特集 「里山はうまいコメを育む」 ~ 山形県高畠町の1年~(NHK)
・カンブリア宮殿 №77 「信念の米作り~日本一うまい米を作る男~」(テレビ東京)
・「ザ!鉄腕!DASH!!」稲作指導員(日本テレビ)
・アニメ作品『おもひでぽろぽろ』トシオのモデル
・その他、多数TV出演
・「全国 米・食味分析鑑定コンクール」4年連続金賞受賞(2003年~2006年)
・「全国 米・食味分析鑑定コンクール」ダイヤモンド褒章受賞(ダイヤモンド褒章とは、5回以上の金賞受賞者で、3回連続の総合部門金賞を果たした生産者に、米食味鑑定協会が贈るいわば「お米づくり殿堂」というべき栄ある賞)
・「お米日本一コンテストinしずおか2018」最高金賞受賞
・「お米日本一コンテストinしずおか2019」最高金賞受賞
・『第21回米・食味分析鑑定コンクール』「ゆうだい21」特別優秀賞受賞
(2023.12月現在)
和食の基本とマナーをしっかり学んで、子どもたちに伝えよう!前編になります。