コシヒカリの1.5倍もある大粒の米「いのちの壱」
「いのちの壱」というお米の品種をご存知でしょうか。「いのちの壱」は、コシヒカリの1.5倍もの大きさがある大粒のお米で、お米のおいしさを評価するコンテストで何度も賞を獲得するなど、味でも高い評価を得ています。
しかし、栽培がとても難しいため、生産量が少なく貴重なお米です。本記事では「いのちの壱」の誕生秘話や特徴について紹介します。
「いのちの壱」は、偶然発見された突然変異のお米です。数々のコンテストで賞を獲得するなど、おいしいお米として知られています。しかし、倒れやすく病気や暑さに弱いため栽培が難しく、生産量がとても少ないことから「幻のお米」と呼ばれています。
私たちが普段ごはんとして食べているお米(うるち米)には、「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」「ヒノヒカリ」など作付け面積の多い品種以外にも、300以上もの品種があります。さらに品種改良によって、毎年10〜20の新しい品種が誕生しています。お米の品種改良は、交配・選抜・固定の3つの手順で行われます。
・交配
品種改良は、親より良い性質を持った稲を作るために、ある品種のめしべに別の品種の花粉をつける「交配」からスタートします。
・選抜
交配でできた種をまいて育てた稲からは、背たけが大きいもの小さいもの、味が良いもの良くないものなど、いろいろな性質を持った種がとれます。これらの中から、目的に合うものを選ぶことを「選抜」といいます。
・固定
選抜した稲を育てると、またいろいろな性質を持った種になります。これらの中から、さらに目的に合ったものを選抜します。そして選抜した稲を育てて、さらに目的にあったものを選抜します。これを繰り返すうちに、選抜した稲を育てても、親の性質と変わらなくなります。このように選抜した子どもが親と変わらないようになることを「固定」といいます。
通常、固定させるまでには、交配から選抜を6〜8回行わなければならず、品種改良には10年近くかかります。
「いのちの壱」は、通常の品種改良の手順で誕生した品種とは違って、突然変異株から生まれたお米です。
平成12(2000)年、当時農林水産省に勤めていた今井隆さんは、岐阜県下呂市の田んぼを見回っていた時に、ある異変に気づきました。コシヒカリの中で背丈が高く、特別に大粒の籾をつけている十数本の穂を見つけたのです。
翌年、この種籾を育てて収穫して炊いてみたところ、コシヒカリを超える甘みや香りがあったそうです。今井さんはこのお米を少しずつ増やしていき、平成18(2006)年に「いのちの壱」と命名して品種登録しました。人間がお米のいのちをいただいて自身の命を支えていること、田んぼは微生物や昆虫、小動物などの命が集まる場所であることから、今井さんは「いのちの壱」と名付けました。
現在は、「いのちの壱」の他に「龍の瞳(りゅうのひとみ)」「銀の朏(ぎんのみかづき)」といったブランド名で販売されています。
コシヒカリの田んぼで偶然発見された「いのちの壱」は、ひと目見てわかるほどコシヒカリと大きな違いがあります。コシヒカリと「いのちの壱」の特徴と違いを紹介します。
「いのちの壱」の最大の特徴は米粒の大きさです。一般的な品種は、見た目だけで品種の違いを判断するのは困難です。しかし、「いのちの壱」は、コシヒカリの1.5倍もの大きさがあり、コロンとした形をしていて、ひと目見るだけで他のお米と違うのがわかるはずです。
吸水性が良いので、炊飯前の浸水時間はほとんど必要ありません。炊き上がったごはんは、大粒でしっかりとした食べ応えがあり、強い甘みや適度な粘り、香りが強いのも特徴です。また、冷めても硬くなりにくいことからお弁当やおにぎりにも向いています。
ここで、コシヒカリの特徴について確認してみましょう。コシヒカリは日本で最も多く作付けされているお米の品種です。令和4年産水稲うるち米の品種別作付面積は、全体の約3分の1を占めています。昭和54(1979)年から作付け面積トップを続けていて「お米の王様」と呼ばれています。
コシヒカリは昭和19(1944)年に、新潟県農業試験場で「農林22号」を母親に「農林1号」を父親として人工交配が開始されました。そして昭和31(1956)年に農林100号として品種登録、「コシヒカリ」と命名されました。誕生から70年近くになりますが、現在も最も多く栽培されている日本を代表するお米の品種です。
コシヒカリは、お米特有の甘みや粘りが強く、ツヤや香りが良いのが特徴です。主な産地は新潟県や茨城県、栃木県などで、日本穀物検定協会が実施する「米の食味ランキング(令和5年度産)」では、栃木県の県北地区、新潟県の魚沼地区、長野県の北信・東信地区、岐阜県の美濃地区などで、最高の特Aの評価を受けています。
参考:米穀安定供給確保支援機構「お米Q&A 日本で多く栽培されているお米の品種を教えてください」
「いのちの壱」は、コシヒカリなど他の品種と比べて背丈が高く、穂も大きくなるため倒れやすく、暑さや病気に弱いことから栽培が難しい品種です。
また、「いのちの壱」のブランドである「龍の瞳」「銀の朏」は、農薬や化学肥料の使用を控えるなど、それぞれこだわった方法で栽培されています。そのため、栽培に手間がかかる上に、収穫量が少ないとても希少なお米です。
「いのちの壱」は、全国的なお米のコンテストで金賞や最優秀賞を受賞して、おいしいブランド米として広く知られるようになりました。
おいしいお米を選ぶコンテストやコンクールが全国で開催されています。主なものを紹介します。
・あなたが選ぶ日本一おいしい米コンテスト
2023年に第17回を迎えた山形県庄内町で開催されるお米のコンテストで、庄内町や山形県、JAなどでつくる実行委員会が主催しています。予選から決勝まで、機械による判定ではなく、同じ条件で炊いたごはんを実際に食べ比べた味や香りなどの審査結果をもとに最優秀が決定されます。
・米・食味分析鑑定コンクール国際大会
2023年に第25回を迎えた国内最大のお米のコンクールです。1次は食味分析計を使った審査、2次は味度計を使った審査、3次(最終)は審査員による官能審査です。毎年違った地域で開催されており、2023年は新潟県津南町で開催されました。
・米-1グランプリinらんこし
北海道の蘭越町で開催されているお米の食味日本一を決める大会です。2023年に第12回が開催されました。予選審査は、全国の食に携わる学校やこだわりのお米を取り扱う専門店などによる官能審査で実施されます。蘭越町で開催される決勝大会審査は、全国公募の審査員や学識経験者などの特別審査員と若干名による官能審査で実施します。
「いのちの壱」は、前章で紹介したお米のコンテストで数々の賞を獲得しています。
第17回 あなたが選ぶ日本一おいしい米コンテスト プレミアム部門
最優秀金賞 今井達郎(岐阜県)
優秀金賞 曽我純次(岐阜県)・三浦祐一(岐阜県)・倉家睦宏(岐阜県)・曽我和夫(岐阜県)
優良金賞 佐藤孝文(新潟県)・竹知良典(岐阜県)・溝下孝司(岐阜県)・曽我博男(岐阜県)・島崎茂文(岐阜県)・成田正樹(岐阜県)
第23回 米・食味分析鑑定コンクール国際大会 栽培別部門
金賞 曽我康弘(岐阜県)
第12回 米-1グランプリinらんこし
準グランプリ 熊崎正人(岐阜県)
最後にいのちの壱を美味しく炊くコツと保存方法を紹介します。
- いのちの壱を美味しく炊くコツ
いのちの壱は吸水性が高いお米です。お米に含まれている甘みや栄養分を逃さないように、水が少し濁っている程度まで洗いましょう。1回目はさっと水に当てすぐに水を捨てます。その後2〜3回程度やさしく水洗いします。ザルを使用したり強く洗米したりすると、お米が割れる事があります。出荷時期によって異なりますが、吸水性が高いため新米の時には浸水は不要です。
- いちいの壱の保存方法
お米に賞味期限や消費期限はありませんが、美味しく食べられる期間は精米から1〜2ヶ月程です。保存状態にもよりますが、長期間保存するとビタミンB1などが壊れてしまい変色やヌカ臭さが出て、味が極端に落ちてしまいます。
いのちの壱は吸水性が高く、他の銘柄のお米より湿気を吸いやすいため、カビなどの発生に注意が必要です。保管する際には、高温多湿の場所は避けましょう。
「いのちの壱」は、コシヒカリの約1.5倍もある大粒のお米です。しっかりとした食べ応えがあり、強い甘みや適度な粘り、香りが強いのが特徴で、さまざまなお米のコンテストで賞を獲得しています。生産量が少ないため「幻のお米」と呼ばれていますが、手に入れるチャンスがあれば、ぜひ味わってみてください。
(おいしいごはん研究チーム)
正しい保存方法でお米の美味しさをキープ! 真空パックも過信しないで!