炭水化物摂取ダイエット――実践編

ごはんをしっかり食べて体脂肪を減らす。

京大式ダイエットの実践方法とは?

森谷敏夫京都大学名誉教授が提唱する「炭水化物摂取ダイエット(=京大式ダイエット)」は、シンプルで画期的なものだけに。「にわかに信じられない」「本当に効果があるの?」という意見もありました。森谷名誉教授の指導にもと、効果的な実践方法を学んでいきます。

効果的なダイエットには、むしろごはんを増やす方がよい

 ふだん私たちが考える「胃のおなか」のほかに、もう一つ、頭にもおなかがあります。これが、脳の視床下部にあるこの満腹中枢。これは、胃のおなかよりも偉く、私たちに「腹減ったから、メシくわせえや」「腹一杯やし、メシくわんといて」と命令をだします。しかも頭のおなかはぜいたくもので、糖質しか食べようとしません。ですから、食事でダイエットをする際には、頭のおなかが「もうおなかいっぱい!」という状態にし、実際の胃のおなかは腹八分目であることが、望ましいといえます。

 そのため、このダイエットを効果的にするには、食事時に次の3つのルールを守ることが、大事になってきます。

ルール1:ごはん(お米)を減らさず、おかずを1割減らす
 
食べ物の嗜好は簡単には変えられません。今までと同じく、好きなものを食べてください。カロリー計算は専門知識が要求されますし、推奨されている1日30品目摂取を意識すると、かえってストレスがたまります。ただし、おかずの1割は最初からないものと考え、摂取しないようにしてください(つまり、摂取エネルギーの1割カットを行う)。この方法をとると体脂肪が減り、リバウンドする心配もありません。
 この時のポイントは、ごはん(お米)を減らさないこと。むしろ頭のおなかをいっぱいにするためには、増やすくらいがちょうどよいのです。その代償として、この1割ダイエットを始めた当初は、体重が少し増えます。これは、ふだん栄養がいっていなかった頭のおなかに糖質を貯め込んだ結果。決して、体脂肪が増えたわけではありません。

ルール2:食事は三食、規則正しく
 朝食を抜いてしまうと、人のカラダは「飢え状態がきた」と錯覚してしまいます。むしろ朝食はバランス良く、ボリュームを持たせるようにし、夕食を軽めに摂るくらいがちょうど良いのです。

ルール3:デザートは食前に
 デザートを我慢して、ストレスを溜めてしまっては本末転倒。要は食べ過ぎなければOK。意外かもしれませんが、甘い物は食前に食べるのがおススメ。頭のおなかに満足感を与えやすいからです。またデザートを果物にすれば、ほかの栄養素も摂取できます。

正しい食習慣を身に付けよう!

 炭水化物(糖質)というのは、通常は脳の唯一のエネルギーなので、朝・昼・晩、しっかりと補充することが大切です。とくに朝食は、しっかり摂らないと、脳は1日のスタートを切れません。もちろん昼食も夕食も一緒です。

 生理学者として、ちょっと心配なのが今の女子高生や若い女性たち。彼女たちは「炭水化物(糖質)、脂質を食べると太る」と思っているので、炭水化物(糖質)や脂質を摂取制限するダイエットに走りがちなのです。とくに影響が大きいのが、炭水化物(糖質)を制限した場合。

 よく電車の中で爆睡している若い女性を見かけますが、彼女たちは毎日、炭水化物(糖質)を少ししか摂らないため、通常時、糖質由来のエネルギーが枯渇しがち。そのため彼女たちの脳は「私たちのエネルギーは肝臓に貯蓄されたグリコーゲンしかない。他に使われてなるものか!」と考え、「ならば、筋肉を使わない状態にしてしまえ」という指令を送り、朝から眠りに誘い、動きを鈍くしてしまっているのです。

 そして、それでも足りなくなると、脳は自分たちのカラダの筋肉を食べ出します。筋肉はアミノ酸で構成されており、分解するとアラニンという物質になります。脳はそれを肝臓まで運ぶように指示。肝臓は、アミノ酸をグリコーゲンに合成できるからです。このメカニズムを使い、脳は自分の筋肉を食べていきます。

 そうなると、彼女たちの筋肉量は減り、カラダの動きはさらに緩慢になり、脂肪がついたままやせ細る「隠れ肥満」へと進んでいきます。その先にあるのは、冷え性をはじめとする婦人病、生活習慣病。それを防ぐためにも、特に女子高生をはじめとする若い女性には、正しい食習慣を身につけてほしいものですね。

 
「体重が変わらない≠体脂肪が変わらない」ではない
 

 私たちは食べて、寝て、仕事して、遊ぶ毎日を送っていますが、一般的に運動習慣が不足しがち。運動しなくなると、食事で摂ったエネルギーが脂肪の形でカラダの中に残ってしまい、ふっくらとした状態に。これが、肥満です。肥満が進むと、やがては糖尿病、高血圧、動脈硬化性疾患、さらには癌などの生活習慣病にかかる危険性が通常の倍以上に。健康面を考えると、ふっくらした(正確には脂肪をカラダの中に溜めこんだ)人は、美しいと呼べないのが現状なのです。

 しかし肥満は、体脂肪の問題であって体重ではありません。もし運動を継続し今の体重を維持しているなら、ダイエットをする必要はありません。ただし、運動をやめて体重が変わらないなら、体脂肪が増えているケースも。「体重が変わらない≠体脂肪が変わらない」ではないので、この場合はダイエットの必要がでてきます。
 
「ジョギングしたら2kgも痩せちゃった!」に潜む大いなる勘違い

 1kgの体脂肪を燃やし分解すると、7,000kcalのエネルギーが得られます。体重が60kgの人がフルマラソン(42.195km)を走っても、消費するエネルギーは約2,500kcal程度。もしジョギングで2kg体脂肪を減らしたのが事実としたら、約236kmを走った計算になってしまいます。

 炭水化物(糖質)摂取を減らした時の体重減と同じように、あなたが減ったと喜んでいるのは、単なる水に過ぎないのです。1日に1kgの体脂肪を減らそうというのは、無謀な考えに過ぎないのです。

 それよりも毎日10分でも歩いたらどうでしょう。10分歩けば約40kcalの消費になります。これを1年続ければ14,000kcal以上になり、食事制限などせずに、体脂肪が2kg減ることにつながります。

炭水化物(糖質)摂取ダイエットの効果をさらに高めるには?

 運動が肥満などの生活習慣病のほとんどすべてを予防するのに有効であることは、様々なエビデンス(科学的根拠)からも明らか。アメリカの著名な生理学者は「運動というものをクスリにできるのだったら、これをすべての患者に飲ませたい」と明言しています。

 運動で、最近注目されているのが「ニート(NEAT)」。ニートといっても、働かないでブラブラしている若者ではなく、「Non Exercise Activity Thermogenesis」の略で、直訳すると「非運動性熱産生」となります。

 これは、家の中でも身近なものを遠くにおいて立ったり座ったり、バス・電車に乗っているときに座らずに立っていたり、なるべく階段を使うようにするという日常の何気ないアクションを指します。「ジョギング」とかのようにはっきりした運動ではありませんが、エネルギーを消費する動作であることに変わりありません。

 一つ一つのニートは、たいしたことはなくても、「チリが積もれば山となる」で、足していけば、1日のエネルギー消費量の約4割に達します。ふだんエスカレーター使っていたのを階段にするなど、ちょっとした行動の変化が、カロリー消費の山を大きくしていくのです。つまり、便利さに甘えず、無駄な動きをしてみようということ。

 炭水化物(糖質)摂取ダイエットの効果をさらにアップするには、運動を組み合わせることが大切。しかし、定期的に1日30分のウォーキングなどの運動を実践できないのであれば、ニートの量を増やすことも効果を上げるには欠かせないのです。
 またこのダイエットを実践するにあたって一つだけ、約束ごとがあります。それは「続ける」こと。「継続は力なり」とは、言い得て妙なのです。
 
 ※上記は実践編です。基礎編はこちら
 ※掲載当時の原本をお読みになりたい場合は、ごはんを食べて、 正しい ダイエットを!または、 教えて!!森谷教授!

 




森谷敏夫(京都大学名誉教授)

1950年、兵庫県生まれ。1980年、南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。テキサス大学、テキサス農工大学大学院助教授、京都大学教養部助教授、米国モンタナ大学生命科学部客員教授等を経て1992年、京都大学大学院人間・環境学研究科助教授、2000年から同科教授に。現在は京都大学名誉教授。専門は応用生理学とスポーツ医学。生活習慣病における運動の重要性を説き、有酸素運動を推奨している。著書には『人は必ず太る しかし 必ずやせられる』(講談社)などがある。