日常的にお米を食べる日本でよく造られる日本酒。各地にさまざまな日本酒がありますが、その製造工程、流れは概ね同じです。日本酒造りはどのような流れで行われ、店頭に並ぶのでしょうか。 今回は、最も基本的な日本酒の造り方について、製造工程の流れやいつも食べているお米との違いなどをご紹介します。

日本酒とは
日本酒の定義とは、「米・米麹・水の3つを原料とし、アルコール発酵させたもの」です。 アルコール発酵のためには糖分(とうか)が必要ですが、日本酒の原料であるお米には糖分が含まれていません。そこで、米麹を使ってお米に含まれるデンプンを糖分(ブドウ糖)に変化させてから、酵母の力でアルコール発酵を行っています。
デンプンをブドウ糖に変化させる工程を「糖化(とうか)」と言い、糖化とアルコール発酵の2つの化学反応を同時に行う日本酒の発酵工程は「並行複発酵」と呼ばれています。世界でも類を見ないほど高度な醸造方法とされ、この過程により、度数の高いアルコールを醸造できるのです。

なお、ビールは糖化とアルコール発酵を別々に行う「単行複発酵」であり、ワインはそもそも果実に含まれる糖をアルコール発酵させる「単発酵」です。日本酒は2つのビールの製造工程を一緒のタンクで行うため、高度な発酵技術とされています。

日本酒の製造期間
日本酒の製造期間は2ヶ月(60日間)程度です。なお、製造の時期はお米の収穫が始まるころなので、「酒造年度」と呼ばれる年間のお酒造りサイクルは7月1日から始まり、7月1日〜翌年6月30日までが一年度として区切られます。日本酒が造られるのは原則として12月〜3月であり、これが「寒造り」と呼ばれる一般的な酒造りの方法です。

お米の収穫時期に合わせているほか、寒い時期は温度管理がしやすく雑菌が繁殖しにくいため、寒造りが主流です。ただし、9月ごろに出荷される「ひやおろし」と呼ばれる限定酒もあります。これは前年度に造ったお酒を夏の間熟成させて出荷するもので、新酒と古酒の中間というイメージです。
なお、設備によってはこうした年間スケジュールに関わらず、四季醸造を行う酒蔵もあります。

日本酒に使われるお米
日本酒に使われるお米は、一般的な食用米とはやや異なり、「酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)」略して「酒米(さかまい)」と呼ばれています。酒造好適米は一般的な食用米と比べて粒が大きく、心白(しんぱく)と呼ばれる不透明部分も大きい傾向です。これは、お酒造りの際には食用米とくらべて表面をより削り取って精米する必要があるためです。
有名な酒造好適米には「山田錦」「五百万石」「美山錦」などのお米の銘柄があります。
なお、酒造好適米について詳しくお知りになりたい方は、「KUBOTAYA」をご参照ください。

日本酒の製造工程
日本酒の製造工程一切を取り仕切る責任者のことを「杜氏(とうじ、とじ)」と呼び、また、酒蔵の経営者のことを「蔵元(くらもと)」と呼びます。

①玄米を精米する
酒造好適米の玄米が収穫できたら、まず精米します。精米歩合によって日本酒の種類が変わります。

精米歩合については、以下の記事で詳しくご紹介しています。
日本酒の種類と違いを知ろう!日本酒の美味しい地域や賞味期限も

②精米したお米を洗い、浸漬する
精米したお米は洗ってぬかや汚れをとり、適量の水分を吸収させるために浸漬します。

③お米を蒸し、米麹にする
「甑(こしき)」と呼ばれる大きなせいろ、または蒸米機でお米を蒸します。蒸すことでお米のデンプン質が変化し、お酒造りに適した水分量に調整できるほか、殺菌効果も期待できるのです。
蒸したお米は、麹造り用と酒母造り用、掛米(もろみ造り)用に分けられ、それぞれ適温まで冷ましていきます。

米麹を作るとは、麹菌をお米につけてその中で麹菌を発酵させることです。これは「製麹(せいきく)」とも呼ばれ、質の良い麹ができるかどうかが日本酒造りを左右するとも言われているほど重要な工程です。

④酒母(しゅぼ)を造り、発酵させる
「酒母(しゅぼ)」とは、アルコール発酵を促す「酵母」を大量に増殖させたものです。麹と水を混ぜ合わせ、酵母と乳酸菌を加えたら、酒母造り用の蒸米を加え、2週間〜1ヶ月程度で酒母が完成します。 酒母を手作業で作り上げる「生酛(きもと)造り」の場合、乳酸菌は添加せず、蔵の中の空気中に存在する乳酸菌を取り込んで作るのが特徴です。

酒母をタンクに入れたら、さらに麹・もろみ造り用の蒸米・水を加えて発酵させます。発酵には3週間〜1ヶ月程度かかり、発酵したものは「もろみ」と呼ばれます。「麹・もろみ造り用の蒸米・水」は一気に全量加えるのではなく、3回に分けて徐々に発酵させていくため、これを「三段仕込み」と呼んでいます。

⑤上槽(じょうそう)を行う
発酵が終わったら、もろみを絞って日本酒と酒粕に分ける「上槽(じょうそう)」を行います。日本酒造りの中でも特に味を決める重要な時期です。それぞれの酒造や日本酒の種類、天候、成分分析値などをもとに慎重に決めます。

⑥濾過(ろか)と火入れを行い、貯蔵する
しぼったばかりの日本酒には、細かく分解されたり砕けたりしたお米や酵母などの細かい固形物が混ざっています。それらを取り除くために「濾過(ろか)」を行います。
その後、殺菌して品質を安定させるための「火入れ」という加熱処理をします。一般的に火入れは60〜65度の低温で30分程度実施され、火入れの後は新酒として出荷されるものを除き、熟成させるために約半年〜1年間貯蔵します。

⑦出荷前の火入れを行い、瓶詰めする
日本酒が熟成したら、各銘柄に合わせて調合したり、水で割ったりしたのち、出荷前の火入れを行って再度殺菌と品質の安定をはかります。最後に瓶やパックに詰めて完成です。

まとめ
日本酒はデンプンを糖に変える「糖化」と、糖をアルコールに発酵させる「アルコール発酵」の2つの工程を同時に行う、世界でも類を見ない高度な「並行複発酵」と呼ばれる醸造工程を経て造られます。
日本酒に使われるお米は一般的に食べられているお米とは銘柄が異なる「酒造好適米」が使われており、精米したお米を蒸して発酵させ、殺菌後出荷するという流れです。
日本酒を飲むときには、ぜひ日本酒の製造過程にも思いを馳せてみてください。
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